614.画家と時計

 

 画家のセローフは脇水路へ向かった。何故彼はそこへ向かったのか?ゴムを買うためである。何故ゴムを?自分用に小さなゴムを作るためである。何故小さなゴムを?ひっぱり伸ばすためである。そう。まだ何か?それではもうひとつ。画家のセローフは自分の時計を壊した。時計は正確だったのに、セローフはそれを手にとって、壊してしまった。それからまだ何か?何もねえよ。何もないし、これでぜんぶだ!それから自分の汚い面を、いらないところに、つっこんでくるんじゃねえよ!ああ、神様仏様!
 ひとりの老婆が住んでいた。生きて、生きて、囲炉裏で焼かれた。ざまあみろ!画家のセローフは、少なくとも、そう結論を出したが・・・
 おや!もっと書きたかったのだが、インク瓶がどこかへ失せてしまったよ。

 挿絵 河原朝生

                              (1938年 1022日)